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法人開設20周年企画
「小規模多機能居宅介護のススメ」
小規模多機能ホーム光の園おおくらの事務所で何やら管理者とケアマネージャーが会話をしているようです。ケアマネの視点から見た小規模多機能ホームとは何か、どんな場所なのか、ちょっと聞き耳を立ててみましょう。
小規模多機能型居宅介護って何だろう?
松岡:棚橋さんってケアマネ歴は何年でしたっけ?
棚橋:ケアマネは1998年に受かりました。介護保険制度前です。
松岡:ベテランの域ですね。今日は、僕らがよく事務所で話をしている小規模多機能型居宅介護(以下:小多機)のことを公開しようという企画なので、豊かな経験に基づいた話をよろしくお願いします。
棚橋:豊かではありませんが…。わかりました。
松岡:小多機のサービスって「通い」「訪問」「宿泊」の3つのサービスを1つの事業所で提供していますが、もう少しサービス内容を紐解かないといけないですね。
棚橋:いつも施設を見学される方に伝えることですが、うちの登録定員は25名。そのうち「通い」サービス(いわゆるデイサービス)は1日15名まで利用可能です。通いサービスに来られなかった利用者は訪問サービスを利用したり、家族に介護していただいたり、一人で過ごしていただいたりということになります。それから宿泊は1日5名までですね。
松岡:厚労省の指針では、「3つのサービスを組みあわせて、その人が重度化しても在宅生活を継続できるよう支援する」と規定されています。小多機を利用される方の特徴というのはありますか?
棚橋:家族が本人の持っている力を理解していて、本人が出来ることは自分のペースでやってもらって、できないところは家族が入って在宅生活を続けている方が多いですね。家の中にいるだけでは交流がないので、そこで同じような人たちと一緒に過ごす。家だと刺激がないので施設に通わせたいというところで、小多機が選択肢に入ってきますね。
松岡:なるほどね。
棚橋:ですが1つだけのサービスが必要な場合は、小多機は選ばれないですよ。
松岡:1つだけのサービスというのは?
棚橋:例えば「訪問だけでいいんです」「デイサービスだけでいいんです」という方は小多機を選ばないです。
松岡:そうですよね、きっと料金も割高になっちゃうし。
棚橋:うちは、必ずサービスを利用開始する前に、本人も家族もホームを見学してもらっていますよね。その時に家族から「お泊りもできるんですね」と言われます。家族は常に「実は将来、急な予定が入った時に宿泊をどうしようか」と頭の片隅に悩みをお持ちなんですね。その時は、“通い”に慣れたら“泊り”を入れませんか?と提案をさせていただいています。そうすると皆さま、安心されます。
松岡:宿泊は、利用者からすると最初は不安なものです。自宅ではないのだから落ち着かなくて当然ですね。それでも見慣れた職員や同じテーブルを囲んでいた他の利用者も一緒にいてくれるので、少し不安が和らぐみたいです。宿泊の回数を積み重ねていくことで定期的な利用にもつながりますしね。
棚橋:そうですね。
在宅生活を安定させるためのキーワードは「協力」と「バランス」
松岡:話を少し変えますが、小多機は定額制で使い放題というイメージはまだあるのでしょうか。これは家族というより、居宅介護支援事業所の方が感じていたりするんですかね?
棚橋:居宅介護支援事業所から小多機の利用を検討される方は、自費が発生することに追い込まれている場合が多いです。『自費が発生しにくい、利用回数制限のない小多機へ』という流れはあると思います。
松岡:とはいえ、希望に沿った形での利用につなげられないよね。25名定員という壁があって、1名登録枠が空いたところに「週5回の通いの利用はできますか?」と相談があっても応じにくい。長い目で通いサービスの回数を増やしていくことはできると思いますが。そう考えると、小多機は家族に介護力を求めている事業所でもありますよね。
棚橋:家族と小多機とが一緒になってサービスの形を考えていくことができれば、在宅生活は安定していくはずです。
松岡:在宅生活を安定させるのに最も重要なことって何ですか?
棚橋:家族の役割もそうなんですけど、家族もある程度の休息が必要です。言葉が上手く見つからないですけど。在宅介護を安心して続けるためには、家族が疲れて介護を続けられなくなるのを防いでいかないといけません。
松岡:確かに家族だけでは難しいですよね。家族も息切れします。変な話ですが小多機のサービスだけでも難しい時があります。医療、リハビリ、訪問看護、地域包括支援センター、福祉用具、それに地域の人も関わってもらうことで生活を安定させていくことが僕らには求められています。とはいえ、小多機の家族の皆さまは協力的ですよね。
棚橋:私もそれは思います。協力してもらわないと小多機のサービスが成り立たないところもあります。本人が安心して過ごすには本人のチカラも必要だし、家族のチカラも必要だし、小多機のサービスのチカラも必要なんですけど、そのバランスが大事かな。 “通い”だけでなく“訪問”や“宿泊”を組みあわせるケースがほとんどになっています。
松岡:サービスのバランスが大事ですね。
棚橋:医療的なサービスが必要になってくると訪問看護が必要になってくるし、あとはドクターとの連携ですよね。医師が(本人や家族に)今後について話をしていただけるというのもあります。本人の在宅生活を支えるっていうのは、家族であったり、サービスであったりするのだけれど医療とか地域包括支援センターなどとも連携が必要だな、とつくづく思いますね。
松岡:一人の人に対して、こんなに関わっているんだなと気づかされますよね。
棚橋:はい。
本人のチカラと、本人のペースに目を向ければ、自宅での生活をまだ継続できる!
松岡:1年前くらいの「家族の会」の議事録を読み返しましたが、ある家族が「施設を利用できている時は完全に安心しています。行かない日は完全に責任を持ってみています。それに関しては自分も納得していますし、施設側に要望もしますし、事業所側に感謝は十分にあります。他の参加者の話を聞いて大変だろうなと思います。私は家では泣くが、人前では泣かない。家庭は大変です。(管理者に対して)これは要望ですが、万が一、私に非常事態が起きたとき、1床あけておいてほしいのです。」って言われたときに、家族は制度の間でもがいているなと思いましたね。
棚橋:認知症がどんどん進行していくのは、家族としては初めてのことで、(本人の状態を)受け入れるには時間がかかると思います。私たち介護職は、色々な人を介護してきた経験から「もう3カ月前から状態が違うよね」と気づいていますが、家族は、そこの変化について「ちょっと気になっているんです」と話をはじめて「進行を止めることはできないですよね」という諦めに近い感情になっているかもと伝わってくるときがあります。
松岡:僕らも認知症の進行を緩和することはできても、止めることはできないからな…。
棚橋:(進行を止められないことは)家族も分かってるんですよ。良くはならない。どんな症状が出てくるのか、毎日気にしているのだと思います。
松岡:これだけ介護をやったら改善する、という成果が介護にはないですからね。その中で、棚橋さんがケアマネとして大事にしていることって何ですか。
棚橋:私は、その人らしい生活というか、自分のペースでなら、ちょっとした声かけや支援で出来ることがあるので、それはずっとやり続けてほしいのですね。家族も、職員も、つい手伝ってあげたくなっちゃうじゃないですか。本人よりも時間がかからなかったりしますし。
松岡:そうですね(笑)。でも、ここは介護する側が辛抱ですね。
棚橋:自分のペースでやっていただきましょう。それが当たり前のように出来ると在宅生活を長く続けられると思います。
松岡:人生100年時代って言われて、うちの事業所の利用者の中にも100才の方がいて、その方に対して、介護者は、(本人が)やれることを奪っていないか、ということを常に頭の中に入れておかないといけませんね。
棚橋:自分のペースだから。あまり干渉されないから、指示されないから。自分の生活範囲で過ごせているから、今の生活を続けられていると思います。
松岡:この前、ホームに来たとき「歩くの大丈夫?」って状態だったのに、後日は「家で草むしりしてました」って職員からの報告を受けると、まだ僕らが知らない家での生活があるんだなと驚きましたよ。
棚橋:私は、うれしい反面、草むしりしていた時に家族が自宅にいなかったのが怖かったですね。
松岡:訪問をしたから気づけた部分ですね。ペースは本人に任せて、判断の部分は支援するといった形ですかね。
棚橋:私自身、自分のペースだったら、けっこう生活を続けられるかなって思っているところもあるので、そこは大事にしたいですね。
松岡:自分のペースっていうのは、他人が見るとすごくゆっくりなのかもしれない。けど自分のペースなら出来きることあるんですよね。うちの法人の基本理念って「ゆっくり、いっしょに、たのしく」じゃないですか。これを愚直にやり続けることって、やっぱり良いケアに繋がるんだなと思います。
棚橋:それと不自由でも環境を変えないってことも大事かもしれません。慣れ親しんだ自宅で過ごす方が、本人の混乱が少ないかもしれませんね。
松岡:環境の変化は、高齢者に限らずストレスだと思います。もちろん、必要な環境の変化などはありますけど。
棚橋:あとさっきも話しましたが、小多機も、小多機だけでしょい込まないってことが大事だと思います。分からないことがあれば、「地域包括支援センターに相談しよう」とか「ドクターにも聞いてみよう」とか。
松岡:我々、介護職員は、介護の専門家はあるけど、医療や福祉用具、社会福祉士などの専門家たちに見解を伺った上で、支援計画を策定し実行してますよね。自分たちに高い専門性があるというより、介護職は、“感情の受容”と“情報編集”のプロフェッショナルでなければならないと思います。
棚橋:そうなんですよ。だから家族が発した言葉とか、本人が出来ることとかを聞くことにしているんです。
松岡:支援計画の根拠は、そこにしかないですからね。
棚橋:そこが大事なんだと思いますね。
松岡:政府が推進している小多機のシステムは、在宅で暮らし続けたい方にとって有用なサービスだと思います。これから時代に合わせて進化していきますので、今後もその人に応じたサービスを提供できるよう走りながら考えていきましょう。今回は小多機のサービスを見つめなおす良い機会となりました。また時間を見つけて語りましょう。ありがとうございました。
棚橋:ありがとうございました。
(インタビュ―日時:2020年4月)